悪魔的に双子。
予鈴が鳴る五分前くらいに、有志と田城は立ち上がって五組を出ようとした。


なぜか蓮が有志だけを引き留めて、背伸びをして有志の耳元に何かを囁く。


有志の顔が心なしか青くなったように見えたのはわたしの気のせいだろうか。


二人に手をふった後、わたしは蓮の顔を軽く睨みながら、


「有志に何言ったの」


と尋ねた。


蓮はわたしの睨みなんてどこ吹く風で、


「相変わらずの兄妹愛ですな」


と何とかなく腹の立つ前置きをして、


「新田くんに、田城を見て表情変えた理由をさりげなく聞いてくるよう『お願い』した」


とサラリと言ってのけた。


「はぁ?」


わたしは呆れて語尾を上げた。


そこまでして知りたいのか、有志を『脅して』まで。


「んで?」


「ん?」


わたしの怒りをはらんだ低い声に、蓮がとぼけて返す。


「どんなネタで有志脅したわけ?」


「……脅してない。お願いしたの」


「うそつけ」


「いや、嘘じゃないし」


らちがあかないので、質問を変えることにした。


「なんでそんなに田城くんと新田くんの関係が知りたいわけ?本人たちは多分触れられたくないんじゃない?だからこそのあの態度でしょ」


「だって」


さらに言い募ろうとしていたわたしは、言葉をさえぎる蓮の声が、心なしか震えてることに気づいて、はっと黙った。


「だって、田城泣きそうな顔してたから」


「……え?」


自分こそ、珍しく泣きそうな顔をした蓮を覗きこんで、わたしは聞き返した。


「田城、新田くんの声が聞こえてる間ずっと、泣きそうな顔してた。何でもないふりしてたけど、わたしの目はごまかせないっての」


「……じゃ、なんであんな好奇心丸出しの聞き方するかな」


「えー、それは」


蓮はペロリと舌をだして首をすくめた。


「人の心配して事情聞こうとするとか、キャラじゃないもん」


蓮の華奢な体が小刻みに震える。


さっきの空気読めないっぷりは演技だったのか。


わたしは感嘆するより呆れてしまった。


「キャラ以前に、実際、蓮って人の悩みとか聞きたい方じゃないよね」


「うん、面白い話でない限り。」


……そういうやつです。


「でも……」


蓮の口元に、柔らかな笑みが浮かぶ。


「田城は別だから。」
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