R∃SOLUTION
「――さて、どうする。本気がいいか」

 周囲の騎士が息を潜める中で、すらりと腰の剣を引き抜いた女が笑った。

 背の中ほどまである銀の髪を一つに縛り、同じ色の甲冑を身に纏った彼女は、目の前の猫毛の騎士を見る。左手に持った剣を器用に回しながら、彼はその空気に似つかわしくない、気の抜けた声を上げる。

「そうっすねえ、本気でやりたいですけど、万に一つの勝てる可能性を消したくないんで、ちょっと手を抜いてくれると助かります」

「手加減したところで、負けるつもりは毛頭ないがな」

「そりゃあそうですけど。もしかしたら、俺が勝てるかもしれないじゃないですか」

 万が一と繰り返して、彼もまた己の得物を引き抜く。

 ヴィルクスのものとよく似た形の剣だった。詠唱をしながら、彼はそれをくるくると回して笑う。

「それなら、魔導結界は私が張ろう」

「お願いします」

 小さな詠唱ののち、透明な壁が二人を取り囲んだ。

「肉体強化は」

「当然、終わってますよ。ヴィルクスさんは?」

「しなくても結構」

「流石の余裕です! 格好いい!」

 左手の拳を振り上げたジルデガルドは、右手にしっかりと剣を握っている。対峙するヴィルクスが楽しげに笑った。

 騎士に紛れて二人を見ていたリヒトの背を、ふと誰かが叩いた。振り返ると、先ほど共に城下を見て回った金髪の姿がある。

「や、リヒトさん。二時間ぶり。君も観戦?」

「俺が元凶っぽいし、そんなとこだな」

「あれ、そうだったの」

「何ていうか、あだ名決め? 俺があいつのこと何て呼ぶか、この模擬戦で決めるってさ。ヴィルクスが勝ったらジル」

「それは――ジル決定かな」

 リヒトが何か返す前に、ナレッズが始まるみたいだと声を潜めた。

「二人とも防御が得意な地術師、得物も同じバスタードソード――さて、今日こそ勝てるかな、ジル」

 楽しげに呟いた彼が、ちらりと二人を窺う。

 小柄な青年に向けてジルデガルドの戦績を問うと、百二十戦中百二十敗だと返答があった。その中で何戦、ヴィルクスが本気を出しているのかを訊く気にはなれなかった。

「来い」

 一言――である。

 その一言に、ざわついていた騎士たちが押し黙った。

 いつの間にか真剣な表情をしていたジルデガルドが無言で頭を下げ、そして、同じ得物を構える騎士のもとへ跳躍した。
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