スイート・プロポーズ
(そういえば、私―――)
美容院で髪を切ってもらう時、頼むのはいつだって女性の美容師だ。
男性に髪を触らせたことはない。
――――薫以外は。
「・・・・・・はぁ」
嫌なことを思い出した。
美琴は軽く首を振り、歩きだそうと視線を上げる。
上げた視線のその先に、嫌なものを見た。
そういえば、この近くにあるんだ。
不二 薫がオーナーのヘアサロンが。
「・・・・・・あ」
向こうもこちらに気づいたらしいが、すぐには動けない。
彼のすぐ傍に、女性がいるから。
見てわかる。
彼―――薫に好意を持っている女性だ。
(ま、顔はいいものね)
美琴は自然と早足になり、ふたりの前を通り過ぎる。
「美琴!」