スイート・プロポーズ
倉本 淳一。
円花の先輩だが、偉ぶったりはしない。男女共に友人の多い彼は、声高に宣言している。可愛い彼女がいる、と。
詳しくは知らないが、彼女さんは花屋で働いているらしい。
円花から見れば、人好きのする性格だと思う。好感は持てるが、恋愛感情を抱いたことはない。
そんな倉本が好きなのだと、目の前の波奈は語る。


「彼女いるのに、いいの?」


何度も言うが、人を好きになるのに許可は必要ない。
ただ、彼女がいる人間を好きになるのは、いささか不毛な気がする。
特に倉本の場合、彼女しか目に入っていない感じだし。


「別に、告白しようと思ったことはないんです」

「いいの?」

「はい。私、思うんです。私が好きになったのは、彼女さんを大事にしている倉本さんなんだ、って」


なるほど。
わからないでもない。


「だから、横恋慕しようとかは全然思ってないんです」


報われなくてもいい。
そう語る波奈は、無理をしている風ではない。本当に、心からそう思っているのだ。


「そう言う小宮さんは、付き合ってる人、いますか?」

「えっと……うん、いるよ」


いないと言えば、波奈は素直に信じてくれると思う。余計な詮索もしないだろう。
だが波奈は、心の奥底に閉じ込めていた秘密を教えてくれた。
ならば、円花も正直に答えねばフェアじゃない。

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