スイート・プロポーズ
本棚を見ると、その人の性格が分かるらしい。
夏目は本棚を見つめ、なるほどと小さな呟きを漏らす。本棚に入っているのは、有名作家の物や可愛らしい色合いの物まで様々だ。
当然ながら、官能小説のような本はない。

「確か……あった。秋月 栞」

以前、円花が好きだと言っていた作家だ。
その言葉通り、本棚の1段を秋月 栞が占めている。作風を示すように、彼女の本はすべてパステルカラーだ。
パラパラとページをめくり、夏目は微笑む。

「……部長の好みじゃないですよね? 面白いですか?」

フォークを置きに来た円花が、本を読み夏目を見て声をかける。
夏目の本棚には、秋月 栞の本は1冊だけ。夏目が自分で買ったとは思えない。
だから、夏目の好みではないのだろうと思っていたのだ。

「面白いよ。ハラハラしたりはしないけど、落ち着く」

「私もそう思います」

円花は笑顔を浮かべると、キッチンへ戻る。

「部長が自分で買ったんですか、秋月 栞さん」

「いや、姉からの貰い物だ」

姉がいたとは驚きだ。
円花はパスタを茹でながら、夏目と会話を続ける。

「お姉さんがいるんですね」

「あぁ。結婚して、今は二児の母だ。会う度に言われるよ。結婚はまだか、って」

夏目の年齢を思えば、姉の心配も当然と言える。早く身を固めて欲しいのだろう。

「お姉さんに弱いんですね」

「どこの家も、弟は姉の奴隷だよ」

その表現が可笑しくて、円花は思わず笑ってしまった。


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