スイート・プロポーズ

Unforgettable...恋

その夜、美琴の部屋に呼んでもいないはた迷惑な来客が訪れた。

「信じらんない」

見下ろす先には、酔っ払って床で寝る薫がいた。以前、家を教えてしまった事を後悔する。

「ちょっと! 起きなさいよ」

声をかけても、薫は起きる気配がない。一体、どれだけ飲んだのか……。
そもそも、酔っ払って帰る先は自分の部屋じゃないだろうか?

「……どうすんのよ、これ」

薫が寝ているのは、玄関の床。動かそうとも思ったが、重すぎて無理。
美琴はポケットに入れていたスマホを取り出し、現在の時刻を確認する。深夜2時。
常識人なら、こんな時間に押しかけて来ないものだ。友人宅に。

「明日も仕事だってのに」

腕組みをして、眠る薫を見下ろす。寝顔を見るのは、いつぶりだろう?
高校の頃、授業中に居眠りして、現国の先生に怒鳴られていたのを思い出す。

「あんまり、勉強好きじゃなかったのよね」

それなのに、美琴と同じ大学へ行こうかな〜なんて、軽口を叩いていたものだ。
あの頃は本気にしていなかったが、今思えば、無理矢理にでも同じ大学へ進学させれば良かった。
そしたら、“今”も変わっていたかもしれない。

「……アホらし」

自分の考えがおかしく思えて、美琴は鼻で笑う。
何を言っても、何を考えても、無意味だ。過去は思い出すもの。戻るものじゃない。

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