スイート・プロポーズ
 美琴の言葉は、確かに前向きで受け入れるべきだ。
 それなのに、円花の表情は冴えないまま。

「……夏目部長と、何か話した?」

「ううん。何を話せばいいのか、分からないのよ」

 自分の気持ちが決まっていないのに、話すことなどできない。
 だからずっと、避けていた。職場が同じだから、会うことは避けられない。
 それでも、仕事以外の会話はしていないし、プライベートの電話にも出ないまま。
 この状態が永遠に続くと思ってもいなし、良好と言えないのも分かる。

「ねぇ、美琴。私は応援するべき?」

「私はそう思う」

 カップを置き、円花はため息をつく。

「でも、彼の気持ちが分からない。海外転勤が来ていたのに、どうして好きだなんて言うの? それって、断られる覚悟だった、って事じゃない?」

「断られる覚悟なら、返事はいらないものよ。でも、部長は違った。あーだこーだ言ってないで、本人に聞けばいいでしょ」

 コーヒーを飲み干すと、美琴は財布を取り出す。

「コーヒー代は私が払うわ。あの店、料理は美味しかったけど、コーヒーはハズレだったわね」

「そうね。……ねぇ、もしも応援するとして、付き合いは続けるべき?」

「…………それは、自分で決めなさいよ。あんたと部長の問題でしょ? 私は部外者。助言はしても、決定はしない」

 そう言って、美琴は伝票を持ってレジへと向かう。
 円花はモヤモヤとした気持ちを胸に、席を立った。

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