スイート・プロポーズ
「お前の言い分は分かる。俺も、それを承知でこの会社に入ったからな」

 だが、人の気持ちや考え方は変わっていくものだ。史誓は変わらないようだが、夏目は変わった。外的要因ーーつまりは円花で出会ったから。

「春、海外転勤の話を聞いた時、俺は言っただろ? 彼女に断られたなら考える、と」

 告白は成功した方がいいが、常に良い答えが返ってくる保証はどこにもない。失敗する可能性も考えられる。
 そして、失敗すれば双方の関係は気まずいものに変わってしまう。自分は耐えられても、相手は耐えられないかもしれない。

「けど、成功すればーー」

「この話は白紙に戻す、か?」

 仕事よりも恋愛を取るのかーーそう言われれば、頷くしかない。
 元々、夏目は出世したいという強い気持ちは抱いていなかった。目の前にある仕事を片付けていたら、今の地位に辿り着いただけ。
 だから、出世よりも円花を取る。

「優志、お前の恋愛は応援する。だからこそ、この話を受けるべきだ。出世すれば、彼女との未来も明るくなるだろ?」

「出世が幸せか、と言いたいのなら、それは人による、と答えるな。現状にさしたる不満はないんだ。彼女との今後を考えるなら、見えない未来よりも、確実な今を大事にすべきじゃないか?」

 キッパリと反論されて、史誓は黙ってしまう。お互い、学生の頃から本当に変わっていない。夏目も史誓も、自分の考えをしっかりと持っている。
 そして、お互いにそれを言い合うことができる。友人はそれなりに居たが、こうして本音を包み隠さず話せる相手は互いだけ。悪友であり、親友だ。
 だからこそ、海外転勤の話を受けたい気持ちもある。

「……悪いな。今は、お前の望む答えを出せない」

「待っていれば、良い返事は期待できるか?」

 春から今まで、ずっと待っていた。夏目が親友の気持ちを考えているように、史誓も親友の恋愛を応援している。
 だがその反面、お互い自分の気持ちも大事だと分かっているのだ。

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