スイート・プロポーズ
 ふたりは黙って、目の前のグラスを見つめ続ける。友情と恋愛、そして仕事。
 それらすべてを天秤にかけたとて、重さは同じ。大切なのはどれ?
 ううん、違う。全部大事だ。欲張りだと言われても、譲れない。

「先に帰る。明日も仕事だろ?」

「あぁ。……いいよ、俺が払う」

 夏目は先に席を立つ。史誓はまだ飲む気らしく、新しいブランデーを店員に頼んでいる。飲みすぎないか気になったが、今自分に出来ることは何もない。黙って立ち去るのも優しさ。
 そう思うことにして、夏目は馴染みのバーを後にした。




ーーー……。

 秋、それはセンチメンタルになる季節。過ごしやすいのは春と同じなのに、冬が待っているからだろうか?
 だが、円花はセンチメンタルとかどうでもいい。秋と言うことは、アレが来たと言うことだ。

「夏目部長の誕生日プレゼント、なんにしますか?」

「酒?」

 波奈はメモを取り出し、みんなの意見を書き込んでいる。
 が、倉本の意見だけは苦笑い。広報部の全員も、冷たい目で見ている。

「なんだよ……。小宮は嬉しかっただろ?」

「……微妙です」

 そう言えば、倉本は円花の誕生日に焼酎をプレゼントしてきた男だ。
 夏目はお酒を確かに飲むが、さすがに上司に焼酎のプレゼントはどうだろう?

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