スイート・プロポーズ
「無難にネクタイとか、万年筆とか……」

「あんまり高いと、部長が気を使うかもですよ?」

「でもさ、海外に行っちゃうかもじゃん。餞別の意味も込めて、ちょっと高いぐらいの方が良いんじゃない?」

 円花は会話を聞いてはいるが、参加はしていない。
 円花も考えなければならないから。今、ふたりの関係は上司と部下だけではない。恋人になってしまったからには、部下一同とは別に、自分も贈り物を考えなくてはいけない。

「どうしたものかしら……」

 贈り物を選ぶ時に大切なこと。
 それは、相手を思って選ぶことだ。相手が欲しいもの、相手が喜ぶもの。
 それらを思い描きながら選べば、気持ちは伝わるだろう。
 でも、円花の心は少しだけ曖昧だ。純粋に誕生日を祝いたいけれど、選んだプレゼントが本当に餞別になってしまったら……。
 そんな事ばかり、考えている。

「小宮さん、良いブランド知りません?」

「え? 何の話?」

「部長へのプレゼントですよ。ネクタイに決まったんですけど、どのメンズブランドがいいか、みんな意見がバラバラで」

 波奈のメモを見てみれば、一面にブランド名が書き込まれていた。高級ブランドもあれば、若者に人気のブランドもある。
 どれを選んだとしても、夏目は受け取ってくれるだろうが。

「みんなに任せるわ。決まったら教えて」

 席を立ち、円花はメモを波奈に返す。今は、自分が贈るプレゼントを考えないと。

「ネクタイはみんなが贈るから、却下ね」

 だとするなら、万年筆、ネクタイピン、ベルト、時計ーーは少し高すぎるか。

「はぁ〜……」

 ため息が知らず漏れ、円花は頭を抱えていた。

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