スイート・プロポーズ
 誕生日プレゼントを渡すのをきっかけに、話せればいいと思ってる。勇気を出すよりも、きっかけを作る方が良いような気がするのだ。

「でも、何を話せばいいのかしら」

「それは、やっぱり海外転勤のコトでしょ? 社内でも噂にはなってるけど、部長さん本人が何も言わないし、正式な発表があったわけでもないから、みんな顔色うかがってるのよ」

 だとしても、円花は何を言えばいいのだろうか?
 未だに、自分でも答えを出せていない。

「選択肢は色々あるじゃない」

「…………」

 美琴の言う選択肢は、確かに円花も分かっている。行かないでほしいから、止める。一緒に行く勇気はないけれど、別れたくはない。
 だから、関係は維持したまま待っている。
 そしてーー。

「別れてしまう、か」

「本気で言ってるの?」

 手に取ったネクタイピンの値札を見た瞬間、美琴はそっとケースへ戻す。
 こんな高いもの、意地でも贈らない。

「ま、そんな相手もいないしね」

 美琴は自分に言い聞かせ、意識を円花へと移す。ネクタイピンを手に取り、真剣に悩んでいる。

「あんたって、悩み事が多いわよね」

「そう?」

「うん。入社した時は、夏目部長の厳しさに悩んでたし、2年目は2年目で、仕事にもっと慣れようと悩んでた」

  総務部で働く美琴は、別段、仕事に誇りなんてものは持ち合わせていなかった。給料の為に働いてる。
 そんな意識程度。
 けれど、円花は違った。毎日毎日、些細な事から大きな事まで、本当に悩みの尽きない友人だ。

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