スイート・プロポーズ
「わ、渡すわよ」

 そうしなきゃ、このプレゼントを買った意味が無くなってしまう。

「まぁ、重要なのはプレゼントを渡した後よね」

 おにぎりを頬張りつつ、美琴は話を続ける。

「結論は出たの? いつまでも悩んでたって、あんたひとりじゃ答えなんて出ないわよ」

「……そんな風に言わなくても……」

 自分でも、薄々は感じていた。悩んでも悩んでも答えは出ないまま、堂々巡りを繰り返している。自分の気持ちが分からない以上、円花は話すべきなのだ。夏目と。
 そうすれば、自ずと答えは出るだろう。

「……今夜、仕事が終わったら渡すわ。その時、話す」

「そうと決まったら、はい」

 美琴が渡して来たのは、円花のスマホ。円花が首を傾げると、美琴は呆れたように肩を落とす。

「メールしなさい、部長に。事前に約束を取り付けておくの」

「…………そう、ね」

 逃げ道は塞いでおかないと。
 美琴に言われた通り、円花は夏目にメールを送る。
 これで、夏目と向き合う以外の選択肢は残っていない。

(手を離したのは、部長じゃ無かったわね)

 彼は、ずっと円花の手を掴んだままだ。離したのは、円花。
 これじゃあ、夏目を責められない。

「メールも済んだことだし、ご飯食べよう。腹が減ってはなんとやら、って言うしね」

「確かに、戦いに行くような気持ちだわ」

 円花はおにぎりを一口かじる。今度こそ、夏目と向き合う。

「なるようになれ、よ」

 自分じゃ答えを出せないのなら、悩んでも仕方がない。すべては今夜、仕事終わりに。

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