スイート・プロポーズ
　本当にこの答えが正しいのかとか、本当に自分の気持ちなのかとか、そういった事はすべて無視した。純粋な、自分の気持ちだと信じたい。

「……本気、か？」

　夏目は驚いたような顔で、円花を見ていた。

「ーーはい」

「…………」

「チャンスは、掴むべきだと思います。部長は、この仕事嫌いじゃないでしょ？」

　悪友である史誓に誘われ、志望動機も何もないまま、ミルフルールに入社した。新入社員の頃は、それほど仕事に熱心でもなかったように思う。与えられた目の前の仕事を片付けていく日々。
　けれど、自分が働く会社のリップを、姉が嬉しそうに買っていたのを見て、少し気持ちに変化が出たように思う。
　たった１本のリップやグロスで、こんな笑顔を浮かべるものなか、と。

「見てれば分かります。だから、その……いつか、後悔する日が来るかもじゃないですか？　行っておけばよかった、って」

　夏目は、友情や仕事よりも、円花を選んでくれた。
　それは、とても嬉しい。大事にされてるんだ、って感じるから。
　でも、違う答えがある、って今気づいた。

「どうして、どれかひとつしか選べないんでしょうか？　全部、選んじゃいけませんか？」

「え……」

　円花は、なんだかスッキリしていた。
　そう、多分この答えが、自分の中の大正解。

「優志さん、アメリカへ行ってください。私、待ってますから」

　そう言って、誕生日プレゼントを差し出す。

「お誕生日、おめでとうございます」

　にっこり笑えば、夏目は意味が分からないようで、少しの間、固まっていた。


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