スイート・プロポーズ
 なんとも言えない、複雑な心境だ。

「小宮? 帰らないのか?」

 動こうとしない円花に、夏目が声をかける。

「あ、帰ります!」

 慌ててバッグを持ち、円花は夏目の後を追いかけた。




ーーーー……。

 数日後、夏目のアメリカ行きが社内に知れ渡った。円花は既に知っていたが、こうして正式に発表されると、実感が出てくる。

「ふ〜ん、行くのね。夏目部長」

「そうね」

 紙パックのジュースにストローを差しながら、美琴は貼り出された辞令を見つめる。正直なところ、円花がアメリカ行きを後押しするとは思っていなかった。
 だから、この辞令が貼り出されてた時、驚いたものだ。

「別れると思ってたわけ?」

「半々だね。部長がアメリカへ行くなら別れると思ってたし、行かないなら継続すると思ってた」

 まさか、両方を取るとは。ジュースをストローで吸い上げながら、美琴はニヤニヤしている。
 ちょっと不気味だが、何も言わないでおこう。美琴には、迷惑をかけたし。

「嘘〜、ホントに夏目部長アメリカに言っちゃうの」

 パタパタと騒々しい足音を立てながら、女子社員が3人、やって来た。辞令を見に来たのだろう。
 円花と美琴は、気を遣って少し場所を移動する。

「アメリカ行っちゃう前に、告りなよ」

「え〜、でも〜」

「もしかしたら、一緒にアメリカ行っちゃったりして!」

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