スイート・プロポーズ
「向こうに話は通してある。必要な資料があれば揃えるぞ」

「……アメリカブランドについて、知っておく必要がある。向こうの宣伝には、誰を使ってるんだ?」

「以前起用していたモデルは……あ、このふたりだ」

 ファイルのページをめくれば、ふたりの女性の写真があった。ひとりは色気のあるブロンド美女。もうひとりは、可愛らしいブルネットの女の子だ。

「モデルは変更してくれて構わない。お前には、あっちの全てを任せるつもりだからな」

「……少し、考えてみる」

 海外で仕事をするのははじめての経験。いい経験になると思うが、失敗すると痛手は大きい。史誓はアメリカでの成功を、夏目の功績にしたいと思っているわけだし、成功することが大前提の話。プレッシャーはかなりのものだ。

「向こうでの住まいは、こっちで用意する。要望はあるか?」

「特にはないな。……煙草を吸うから、そのあたりは気をつけた方がいいか」

「了解だ。ところでーー恋の方はどうなんだ?」

 瞬間、夏目の視線が冷ややかになる。
 それに気づいた史誓は、しまった、と言う顔つきになった。

「小宮に余計なことを言っただろ?」

「あ〜……否定はしない。しない、が……決めるのは本人だ」

 つまり、自分に罪はない。
 そう言いたいわけだ。

「決めるのは本人。その意見には賛成だ。けどお前は、小宮がアメリカ行きを推すように仕向けただろ」

「……ふたりの将来を考えれば、悪い話じゃないだろ?」

 悪びれた様子が見受けられない。出会った頃から、史誓はこういう男だ。今更、その性格を指摘しても意味がない。男の性格を変えるのは、いつだって女なのだから。悪友と言えども、自分には無理だ。

< 273 / 294 >

この作品をシェア

pagetop