スイート・プロポーズ
「お前が自分から告ったの小宮さんだけだし、ケッコー本気だと思ってんだけど、俺は」

 ファイルをめくりながら、コーヒーが注がれたカップを手に取る。
 史誓は微笑みを浮かべていて、真意が分かりづらい。

「今はそのつもりだったとしても……将来のことは、誰にも分からない」

「ふ〜ん……俺は応援するからな、ふたりのこと」

 史誓のその言葉に、夏目はなんとも言えない表情になる。自分達の関係がダメになりかけた原因の海外転勤ーーそれを持ちかけてきたのは、他ならぬ史誓だというのに。
 それなのに、応援するとは……。

「疑うなよ。応援してるのは本気なんだ。アメリカへ行って欲しかったのも、本気」

「……分かってる」

 コーヒーを一口飲めば、少し冷えていた。
 史誓の気持ちも分からなくないから、責める気持ちは芽生えて来ないのだ。

「ところでさ、黙って行くのか?」

「なんの話だ?」

「小宮さんとのことだよ。公表はしないのか?」

 冷えてしまったコーヒーを飲み干し、史誓は立ち上がる。

「どうだろうな。彼女に任せる」

 夏目もコーヒーを飲み干し、開いたままのファイルを閉じる。
 夏目自身は、周囲に知らせて回りたい気持ちはない。円花が隠したままでいたいのなら、それで構わないと思っている。

「自分のものだ! って主張したくはないのか?」

「……無くもないだろうが……」

 本音を言うと、夏目の気持ちは史誓の言うものより、少しばかり仄暗い。誰かに見せびらかすよりも、誰にも見せたくない、と言う気持ちの方が強いのかもしれない。
 まぁ、どっちですか? と聞かれた場合の話だけれど。
 夏目にとって大事なことは、円花が自分の隣にいてくれることだから。

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