スイート・プロポーズ
 それに、夏目は分かっていた。アメリカ行きを応援する気持ちと、一緒にいたいと言う気持ち、どちらも本物だと言うことを。

「俺が日本にいる間、ワガママをたくさん言ってくれ。会いたいなら夜中にでも会いに来るし、行きたい場所があるなら連れて行く。君のワガママは、俺の思い出になるんだ」

「……本当に?」

 無理してない? 嫌な女だと、思っていない?
 夏目の目を見つめるが、彼は嘘を言っているようには見えなかった。

「じゃあ……今夜、一緒にいてくれますか?」

「喜んで」

 夏目が、優しく抱きしめてくれる。
 その温もりに、円花の涙は簡単に引っ込んでくれた。人前で泣いたのは、本当に久しぶりだ。冷静になると、なんだか恥ずかしい気持ちになってしまう。

(こんなにも、誰かを好きになるなんて……)

 告白された時には、思いもしなかった。
 でも、後悔はない。夏目が好き。恥ずかしくて口にはできないが、愛していると言ってもいい。

「しばらく、こうしててもいいですか?」

「あぁ」

 夏目は、笑顔で円花を抱きしめていてくれた。知り合った期間と、恋人になった期間。
 あきらかに、恋人になった期間は短い。
 けれど、時間は関係ないのだと思う。自分はきっと、遅かれ早かれ夏目に恋をしていたはずだ。
 この恋に、約束はいらない。自分は夏目を、待っていられる。
 そんな確信が、自分の心を強くしてくれる。
 だから今は、この胸の中にいたい。夏目がアメリカへ行く日は、ちゃんと笑顔で見送るから。

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