スイート・プロポーズ
 それが嬉しくて、夏目は円花と過ごす一分一秒を愛しく思っていた。

「離れがたい……」

「今更、行きたくないとか言うなよ」

 睨んでくる史誓に、夏目は苦笑する。

「覚悟は決まってる。アメリカには行くし、成果を出す。だが……円花の側に居たいのも本当だ」

 短ければ2年だが、期間は伸びる可能性の方が大きい。お互い、自分達が知らない2年を過ごすのだ。

「……なんで今、俺はお前と会ってるんだろうな」

 明日はアメリカへ行くのだ。普通、恋人と会うものだろう。
 それなのに、自分は今、悪友と会っている。
 こう言ってはなんだが、時間の無駄遣いに思えてしまう。

「本人の前で言うか、普通」

 今度は史誓が苦笑する。ビールを一気に飲み干すと、運ばれて来た焼き鳥に手を伸ばす。
 この店はリーズナブルで、味も良い。大学時代から今まで、定期的に訪れている。

「帰って来たら、またここで飲もう」

「お前のおごりならな」

 夏目の答えに、史誓は笑う。おごることを約束すると、史誓は新しいビールを注文することにした。





 翌日、円花は有給を取って夏目を見送りに来た。
 きっと、広報部の同僚達は有給を取った理由に気づいているだろう。明日、梨乃や倉本にからかわれることだろう。
 それを覚悟で、見送りに来たのだが。

「無理して電話したりしないでください。簡単なメールなら、欲しいですけど」

「あぁ、着いたらメールするよ。見送りのために、有給を取らなくてもいいだろうに」

 見送りに来た円花は、精一杯のオシャレをしてきた。綺麗な自分を、しっかりと覚えていてもらわなくては。

「日本人の有休消費率は、世界最下位なんですよね? こういう使い方は、有意義だと思いません?」

< 285 / 294 >

この作品をシェア

pagetop