スイート・プロポーズ
「もうちょっと……待って。まだ、涙が止まらないの……」

「いくらでも待つわよ」

 美琴は笑って、円花の隣にいてくれた。
 それが有難くて、円花は宣言通り、しばらく涙が止まらなかった。

 時が過ぎ行くのは早い。今日までの日々は、まるで早送りしたかのような早さだった。
 でも、夏目がいない2年は、きっと長く感じることだろう。1日が始まるたびに夏目を思い出して、1日が終わる時に、また夏目を思い出すだろう。
 けど、絶対に泣かない。夏目を思い出して、泣いたりしない。
 だって、思い出す日々の中にいる自分は、笑っているもの。夏目を思い出すたび、自分は笑う。
 そしたら、明日も笑顔で頑張れる。

「顔、洗って来る」

 円花は涙を拭うと、自分でも分かる程の無理した笑顔を作って、お手洗いへ向かった。夏目を見送る時は、笑顔でと決めたのだ。飛行機が飛び立つ瞬間だって、笑顔で見送らなくては。

「……さてと、薫に連絡しとかないと」

 お手洗いへ行った円花を確認すると、美琴はスマホを取り出す。
 ここへ来る時、円花は夏目とタクシーで来た。
 けど、美琴は薫の車で来たのだ。帰る頃に電話すると言ったし、そろそろ電話しておいた方がいいだろう。

(それにしても、あのふたりを見てると、なんだか恋愛も悪くない気がしてくるから不思議)

 自分も、恋をしてみようかな。
 そんな気分になってしまう。悔しいから、絶対に円花には言わないけど。
 美琴は画面に写し出された薫の名前を見つめて、ボタンを押した。






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