スイート・プロポーズ
唇を、軽くだけれど舐められた。
その感触が、生々しく残っている。
(キスされるより恥ずかしいっ!)
羞恥に耐え切れず、ついジャケットに顔を埋めてしまう。
けれど、ジャケットからは夏目の匂いと煙草の香りがして、逆に先程のことを思い出してしまう。
(あ〜・・・・・・!)
ここがタクシーの中じゃなかったら、発狂していたかもしれない。
(部長って、あんな人だったっけ?)
纏う雰囲気も艶っぽく、色香も通常の倍近く感じた。
(ダメだっ。負けるな私っ)
勝負などしていないのだが、円花の心境はそんな感じだった。
波紋の広がりは穏やかだが、決して弱くはない。
雨は降り止まず、新たな波紋を穏やかに生み出していく―――。