スイート・プロポーズ
(平常心、平常心)
文庫本を開き、集中して読み進める。
何ページか読んで、文章にジャケットの文字を見つけ、思い出す。
(一応、クリーニングに出した方がいいよね)
チラッと夏目を盗み見て、自分の唇に触れてみる。
今日は、グロスをつけていない。
なんだか、つけていると昨夜のことを思い出しそうで嫌だから。
(お気に入りだったのに)
一目惚れして買った色なのに、と気持ちが沈む。
程なく、3人目が出社してきた。
「おはようございまぁす」
バッチリ決めたメイクと、春らしい色合いのワンピースを着た新嶋 梨乃に、円花は内心ため息をつく。
あの明るさが、今は辛い。
「あれ?」
「何?」
梨乃が不思議そうに、円花を凝視する。