真夜中ビター・チョコレイト
母親との行為を終えた人の中には、娘の私にも目をつけるような物好きがいる。
そんな人とはこっそり連絡先を交換して、いつでも避難場所を確保できるようにしていた。
やることさえちゃんとやれば、ご飯も奢ってくれるし、柔らかな布団も提供してくれる。いつになったら帰れるだろう、と不安になることもない。無駄なお金も使わなくていい。
最低な母親を持ったと思う。でも、自分を可哀相だと思ったことはない。
若くて美しい母親に似たこの容姿は十分役に立っている。
それだけで、よかった。
……よかった、はずなのに。
「……今日は、若い人だったよ。結構イケメンで、……前にも一回来たことがある人」
「ふーん」
「……どう思う?」
「どう、って?」
「俺を呼べばいいのに、とか」
「……別に」
言いつつ私の隣に腰掛け、スラックスのポケットから取り出した箱から煙草を一本抜き取る。
カチ、とそれに火をつける彼を、私は横目で眺めた。
彼だって、私に声をかけてきた内の一人だ。
母親に似ている私に見惚れ、血迷って私と連絡先を交換した避難場所のひとつ。
そんな人、他にいくらだっている。別にこの人じゃなくたっていい。私を助けてくれるなら、誰でも構わない。