真夜中ビター・チョコレイト
 


だから、気まぐれ。
ここ最近ずっと彼の部屋に泊まりに来ているのは、ただそういう気分だから。

他のおじさんたちと比べて、若いし。格好いいし。そして何より、上手だし。

そう思うようにしていた。
特別な感情なんてない。
母親のお下がりなんて、絶対好きになったりしない。

そんなのこっちから願い下げだ、と。


「……ミオ、」
「ん?」
「ここ、来い」

灰皿で煙草を押し潰した彼が、私を呼ぶ。
ここ、と示されたのは、彼の広げた両足の間の狭いスペース。言われるままにそこに座り直せば、彼の腕が緩く腰に巻き付いてきた。

そして、私のうなじにゆっくりと頭を落とす。――こうすると落ち着くのだと、以前彼は言っていた。

「……なんか、甘い匂いする」
「さっきチョコ食べたもん」
「お前、あんな甘ったるいのよく食えるよな」
「アサギさんこそ、よくこんなの吸える」

目線で示した灰皿上の吸い殻に、彼はフ、と笑った。

「煙草キライ?」
「キスが苦いから、やだ」
「ガキ」
「うるさいおっさん!」
「悪かったな、おっさんで」

くつくつと笑いながら私の身体を強く抱きしめてくる、その腕が。密着した肌から布越しに伝わる、その体温が。

愛おしいと感じるようになったのは、一体いつからだったか。


 
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