真夜中ビター・チョコレイト
彼とどんなことをしようが、私が義務教育を終えただけのただのコドモだという事実は変わらないわけで。
背伸びしたって、彼との10歳の差は縮まらない。
本気になんかされていない。一度夜を共にした、綺麗な女の面影があるから。私はあの人の代わりだから。
わかっている。
わかって、いるのに。
「……ねえ、」
「んー?」
いつからだろう、
「あの人の方が、よかった?」
自分が子供であることを、もどかしく思うようになったのは。
胸の奥が締めつけられるような、そんなどうしようもない気持ちになり始めたのは。
この人のことが好きなのだと、気づいたのは。
少しの沈黙の後、ふと、うなじに感じていた熱が遠ざかる。
振り向けば、彼の唇が、一瞬だけ私のそれに触れた。
甘、と苦笑しながら唇を舐めるその仕草は、恐ろしく妖艶で。
「お前の母さんってさあ、」
「……うん、」
「娘さんをくださいって言ったら、簡単にくれそうだよな」
「……うん?」
急に、何の話だ。
図りかねて顔をしかめた私をよそに、彼はもう一本煙草を取り出した。