恋結び【弐】
雨の中
今日は雨が降っていた。
「傘持ってきてないわ」
「あ~あ、雨とか最悪」
と、飛び交う反論。
たった今、俺はデザイン企画部を偵察に来ていた。
「どうだ、佐野。進んでいるか?」
「はいっ!順調です」
「ならいい」
俺が「がんばれ」と笑ってきびすを返せば、頭を下げる社員たち。
そのまま俺は社長室に戻っていく。
俺――大久保翔太は、25として有名な香水、指輪、ネックレス等を製造する“大久保社”の社長だ。
以前は実の父、達大がここの社長としてやっていたが、俺と交代し、自分は家で趣味のガーデニング(?)に営んでいる。
とんでもない父親だ。
俺はデスクの上にある山積みになった書類に目を通す。
香水の香りの依頼。
容器にこだわる、取引先の要望。
指輪、ネックレスの増量願い等、内容は様々だ。
ああ…。
やる気が出ねぇ……。
書類を乱暴に置くと、俺は窓の外に目をやった。
雨が酷く、窓は濡れる。
ここは36階。
下を見れば足がすくむぐらい、ここは高い。
そうだ。
俺はあることに気付いた。
昨日、俺自身が考えた香りの組み合わせテスターが家にあることを思い出した。
持ってくるのを忘れてた…。
俺は早足でバックと上着を持ち、エレベーターに乗り込んだ。