ルーンクレスト
第一部
記憶喪失の少女
霧の中、蜃気楼のように浮かぶ桜。
ふわふわと桜の花びらは少女―――メルルの頬をなでる。
美しい桜色の腰まであるサラサラの髪。
薄い桜色のきれいな瞳の整った顔立ち。
霧の街セレッソ。
セレッソの街を何で知っていたかは分からない。
でも、私はそこに行かなければいけない気がした。
「……今……行くから……」
誰に言っているか分からない言葉。
でも、はっきりと意味を持つその言葉は、誰かに届いた。
『お前が救世主か?』
「……誰?」
頭にはっきりと響く声。
その声は、私に話しかけていた。
『俺の命はもうない』
「?」
『お前も異能力者か。どうか、セレッソの街を救ってくれ』
「……あなたは……誰……?」
『俺の名は、カイン。メルルに俺のクレストを授けよう』
「?」
私が疑問に思ったと同時に、左肩が痛くなる。
焼けるような痛み。
すぐに収まったけど、どうなっているか確認してみる。
そこには赤い紋章。
見ているとだんだん紋章は強い策薄くなり、黒い点になった。
『お前が願う時、力を解放しよう』
「?」