君に、溢れるほどの花を
咲月は五年もの間行方をくらましていた時期がある。
放浪の旅に出るというたった一文の書き置きだけを残して。


いなくなったのが突然なら、戻ってきたのも突然で。
なんの前触れもなく五年ぶりに姿を現した彼女は、なんだか吹っ切れたような表情をしていた。


咲月は、その五年間のことを何一つ話すことはなかった。
それでも、その表情を見れば、放浪の旅とやらがそれなりに実りのあるものだったらしいことはよくわかった。


それからさらに五年の月日が流れた今でも、咲月はあの五年間のことを一切語ろうとはしない。






いつの間にかまたぼんやりとしていた雨流だったが、一向になにも言おうとしない咲月を訝しく思い、じっと見つめてみた。


（なにか用があったんじゃ・・・？）


いつもは飄々とした態度を崩さない彼女にしては珍しく、その表情にはわずかに焦りのようなものが感じられる。
と言っても、ずっと一緒にいる雨流だからこそ気づけたほんの些細な変化でしかなかったが。

それでも、そんな彼女を見るのは初めてのことで、雨流は多少なりとも驚く思いだった。


「・・・月姉？」


なにかあったのかという意味合いで短く呼びかければ、


「ああ、うん・・・まあ、大したことはないさ。とりあえず、ここにいれば大丈夫だろう」


と、なんだか歯切れの悪い答えを返された。
そうであっても、雨流の呼びかけの意味はちゃんと正しく理解しているらしかった。

はぁっとため息一つ分の間を置いて、咲月は苦り切った声音で告げる。


「しばらくは、家に戻らないほうがいい」


雨流はその言葉で、ああ、なるほどと半分は納得した。
しかし、もう半分はなんだか釈然としないものがあった。

再び雨流は、咲月をじっと見つめた。




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