ニ択(選ばない)
「わかりました」

長谷川は素直に頷いた。考える時間が欲しかったからだ。

数分後、別の医者が到着した。2人の助手を引き連れた。

白髭をたくわえた医者を先頭に、後ろを歩く若い医師は男と女の2人だった。

白髭の医者は、長谷川を見ることなくすれ違い、部屋に入っていく。

2人の助手は、長谷川に頭を下げた。

長谷川も頭を下げた。

その次の瞬間、長谷川は激しい眠気に襲われた。

「場所を変えるぞ。正流」

長谷川の耳に聞き覚えのある声が響いた。

「お、お前は!」

顔は違うが、忘れることのできない声。

「正流。お前は真面目過ぎる」

「い、幾多!」

「こいつは、小賢しいだけだ。選ぶのも、選ばないのも自由にできる。すべて、自分の意思だ。何も選ばないやつが、全身白を選ぶか?」

助手の男は、笑った。

どこからか発生したガスにより、長谷川や刑事達が眠りについた数分後、三人は白水を連れて忽然と姿を消した。




「やあ〜」

ガスを吸い、流石に眠りについた白水の前に、幾多が座っていた。

シチュエーションは、長谷川と同じ。

しかし、置かれていたものが違った。

銃とナイフだ。

「さあ〜質問だ」

幾多は笑い、

「どれを俺が選ぶと思う?君を殺すのにな」

男を見つめた。

「僕は…何も…選ばない…!?」

目覚めた白水はいつも通り俯き、無表情で答えようとした。

その瞬間、白水のうなじにナイフが突き刺さり…そして、銃口は額に当てられた。

「俺はマニアではない。お前の心情も、生まれ育った環境も!演技も必要ない!」

幾多はそう言ってから、自分を責めた。

(感情的になるな!こんなピエロに)

心が注意した。

(だがな!)

幾多の脳裏に、カフェでともに過ごした少年の顔が浮かぶ。

「ごめんなさい…」

白水が初めて、謝った。

その言葉に、幾多は冷静さを取り戻した。

銃を白水から離すと、幾多は部屋から出た。

「幾多様」

今までのことを見守っていた女に、幾多は口元に笑みを浮かべながら、命令した。

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