水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
その後は、勉強を中断して今井さんが運んでくれた紅茶と、
お菓子を時折楽しみながら和花ちゃんと、毛糸と格闘。
教えて貰うままに、
両手で毛糸と、編み棒を操っていく。
スルスルっといとも簡単に編んでいく
和花ちゃんの隣、ぎこちなく編み続ける私。
長方形に編み上げて行かないとマフラーにならないと思うんだけど
私が格闘してるそれは、めが詰まりすぎて、台形状態に……。
その度に和花ちゃんが、その場所まで解いて編みなおしてくれる。
私が編んだって言うより、和花ちゃんに大分、
手直しして貰ってるような気もするんだけど、
それでもゆっくりと何もなかったところから
完成に近づいていくのは、凄く嬉しかった。
楽しい時間は、やっぱり時間が経つのも早くて
家からの迎えが来た和花ちゃんはサナトリウムを後にしていく。
一人になった部屋で、私は今も、
二本の編み棒と毛糸と格闘してた。
肩は凝るし、目も疲れちゃうのに
それでも……毛糸を操る手は止めたくなくて
少しでもうまく作れるようになりたくて。
ふと、久しぶりに氷雨君からの着信を告げる
メロディ-が部屋に流れる。
初めてのデートの日。
一緒に見た映画の主題歌。
編み物の手をとめて、
ゆっくりと携帯を手に持つ。
「もしもし」
メールじゃなくて、電話。
それに声が聴けるって言う事実が
私には凄く嬉しくて、
携帯を握る手にも力が入っちゃう。
「妃彩、何してた?」
「何してたかは秘密。
でも氷雨君のことを想って
過ごしてたのは確かです」
「オレを想って?」
「うん。
氷雨君は何してた?」
そう問いかけた氷雨君は、
少し黙ってしまった。
「あっ、ごめんなさい。
何してたかなんて話したくなかったら
それでいいんです。
なかなか氷雨くんと逢えないし、
声も聞けないから……少し寂しかったの。
でもでも、ちゃんと理解もしてるつもり。
氷雨くんは受験生で、 私も期末試験ってことは、
やっぱり氷雨くんも期末試験で。
あぁぁぁ」
突然、電話口で叫ぶ私に
氷雨くんがびっくりしたように「どうした?」って問い直す。
「編み物してる場合じゃなかった。
編み物に夢中になってて、
期末試験の存在、忘れてた……」
そうやって呟いた私を、
電話の向こうで氷雨くんは笑ってた。
「期末試験かぁ……。
そういや、オレも忘れてたかも」
「ふぇ?」