水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
6.天使の歌声 -由貴-
夏休み。
氷雨が事故ったあの日から、
また私たちは、何時もの日々が始まって行く。
時雨と飛翔は、
今も医学部を目指して受験勉強に勤しみ続ける。
氷雨は、事故のあの日から
一日も欠かすことなく、多久馬総合病院の病室にいるであろう
あの女の子の元へと通っているみたいだった。
スタンドのバイト、多久馬総合病院。
そして相変わらず、小母さんとの距離は開いているのか
家の中には戻らず、金城家の向かい側にある倉庫の方で
寝泊まりしているみたいだった。
バイクを入れている倉庫。
その場所には、事故の時に犠牲になった
氷雨のバイクが片付けられていて、夜な夜なその倉庫の中で
バイクをばらしては、友達と何かの作業をしているみたいだった。
レンタルショップの夜バイトからの帰り道、
玄関を潜る前に、
チラリと倉庫の光を感じながら私は家の中へと入っていた。
バイトから帰った後も、時雨は勉強タイム。
そんな時雨にあわせるように、
テキストを持ち込んで、時雨の隣で勉強を始める私自身。
私を囲む周囲の人は、
凄く輝いて見えて、私自身には何も存在しないと思えてしまう。
どれだけ医大進学に向けて、受験勉強を頑張っていても
時雨や飛翔と出遅れていると思えてしまうのは、
私自身が今も、『医者になる』っと今だ、明確に描き切れていないから。
表向きの、医大進学を夢見て受験に勤しむ私の心と、
私の本音である、不安だらけの時間。
そんなギャップだけが自分を更に追い込み続けていた。