水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
溜息をつきながら私は部屋の中に、
ゆっくりと車椅子の車輪をまわして入ると
スタッフは、一礼して外から鍵をかけた。
カチャリと外から回された鍵音が、
私と社会を遮断する大きな壁の様に思えた。
会いたかった氷雨。
多久馬総合病院で入院していた時間は、
私にとって、優しいと思えた夢の時間。
だけど……私の現実は今の時間。
車椅子の車輪をまわして、
硝子窓の方へと近づいてくる。
透明硝子ではないので、外の世界を眺めることは出来なかったけど
外から降り注ぐ光は、とても強い陽射しで眩しさすら思えた。
多久馬総合病院を退院して、
坂の上の施設に戻って、
この部屋で生活をし始めて数日が過ぎた。
この部屋にスタッフが近づいてくるのは、
ご飯の時間のみ。
その一日三度の食事の時間を覗けば、
誰も立ち入ることがない空間。
夏休みの交通事故以来、
この施設に迷惑をかけた私に
まともに話してくれるスタッフは居なくなってた。
狭い部屋で出来ることは、
ベッドとトイレの往復くらい。
お風呂すら、
誰かの介助がないと入れない現実。
*
あの時……本当に、
パパやママのところへ行けていたら……
*
そんな思いが何度も何度も芽生えていく。
だけど今のこの部屋に、
自らの命を絶てそうなものは何もない。