水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
「お父さんは仕事よ。
また暫く泊まり込みですって。
明け方に着替えを取りに帰るって
連絡があって、洋服を詰めて待ってたんだけど
話す間もなく、出掛けてしまったわ。
ホント、警察官の妻なんて不幸よ。
だから氷雨が好きになった彼女には、
母さんみたいな辛い思いは絶対にして欲しくないの。
ただ不安を抱えて待つだけなんて
寂しすぎるもの。
いいわね、だから警察官になんて
なろうと思わないでちょうだい」
必死に訴え続ける、
母さんの縋るような声から逃げ出すように
テーブルのコーヒーを一気に飲み干して
玄関から出掛けていく。
駅まで歩いていくと、
そこには紅蓮の幹部の一人である
同級生の黒崎有政【くろさき ありまさ】の姿を捕えた。
「有政」
有政の隣には、
彼女である南緒が静かにお辞儀をする。
有政の隣で微笑む南緒の姿と
妃彩が重なって見える。
ヤベッ。
重症だな……。
毒づくように吐き出して、
二人の元へ近づく。
「あっ、久瑠実【くるみ】と浩太が来たから
有政、私行くね」
そう言って有政の元から、
二人の元へと走っていく南緒。
「ちーす」
「おはよー」
「今日は19時頃からエスカルゴでいんですか?」
「あぁ、何時もの時間で。
有政と浩太でオレが行くまで仕切り宜しく。
バイトの後、顔出すわ」
「軽く流してエスカルゴで集会してます」
「オレも早く走らせてやりたいな。
相棒」
「氷雨のバイク用のおしゃかになったエンジンの代わりなんですけど、
廃車で引き取ったバイクから出せるらしくて、兄貴がまた持ってくるってさ。
兄貴、俺のバイクにはサッパリなんだけど
氷雨のバイクのチューンには乗り気なんだよな」
「サンキュー。瀬口先輩にもまたメールしとくよ。
んじゃ、浩太もそろそろ時間だろ」
「奈緒たちが待ってるしな」
「んじゃ、放課後」
駅の改札を入って、ホームで別れたオレたちは
それぞれのホームに続く階段へと降りていく。