水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」

「こんにちは。
　君、この間も居たよね」


奥の扉から姿を見せた一人の同い年くらいの少年は、
真っ直ぐに私の方へと近づいてくる。


「えっと……」

「初めまして。僕は鷹宮勇人【たかみやゆうと】。
　ここの教会は、養父【ちち】の鷹宮総合病院と繋がっているんだ。

　今、この部屋に僕と一緒に入ってきたのは、
　鷹宮の入院患者さんたち」

「入院患者？」

「そう。今から、この場所で行われるのは
　倍音ヒーリングと言われる、音の力を用いたリラクゼーションって言うのかな。

　まだ研究段階だけど、精神的な時間と音楽の癒しの効果って言うのかな。
　そう言うものがキーワードとなって、定期的にこの教会で行われているんだ。

　さっ、今日も始まりそうかな」


そう言うと、私を誘導するように勇人と名乗った少年は
最前列の椅子へと腰掛けた。



「さぁ、それでは。
　今日もまず、皆さんの心の解放から。

　貴方自身の声を、体の中にゆっくりと浸透させるように響かせてください。

　さぁ、この音から」



そう言って、パイオルガンの音色を一つ室内へと響かせると
この間の様に、決して歌詞ではない、「あ」「い」「う」などの言葉を組み合わせられた
歌声がゆっくりと重なりあい始める。



「倍音の振動って言うのは、とても大きなエネルギーなんだ。
　体の隅々、細胞の一つ一つに響き渡って、共鳴を引き起こすことが出来たら
　体も心も解きほぐされていくんだ。

　それはシータ波って言う脳波にも影響を及ぼして、潜在意識の扉を開くと言われてる」


その少年が小声で説明してくれるのは、
すぐに素直に受け止められるものでもなかったけど、
その直後、ゆっくりと再び開けられたドアから一人の女性が
グラスハープと呼ばれる楽器と共に、姿を見せた。


その場にいた人たちが、ピタリと声を出すのをやめて
視線がその女性へと集中する。




その女性が、グラスハープを操りながら
ゆっくりと声を乗せていく。


今も決して、歌詞を歌っているわけではなく
「あいあいあー」などと、意味を考えようとすると不明すぎてどうしようもない
言葉の組み合わせを続けながら声を空間いっぱいに浸透させていく。



時折、水のせせらぎの音色や、ベルの音色。
波の音色。


そう言った効果音が重なり合って、
静かに耳を澄ませている間に、
『夢』のことでイライラしていた自分や、
コンプレックスで悶々としている自分が
とてもバカらしく思えて、体がポカポカしているのに、
私自身の意思とは関係ないように、涙がボロボロと溢れ続ける。


この間以上に強く、体に影響を及ぼしていく
天使の歌声。