水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



今を目を閉じると、
天使の透き通る歌声が脳裏に響いてくる。


そんな余韻を感じながら歩いていると、
バイクをふかしながら、近づいてくる騒音が耳につく。


危険を感じて逃げようとした頃には、
すでに特攻服を着たバイク集団に囲まれてしまっていて
思わず体を委縮させる。


「ちょっと金、かしてくんねぇーかな。
 ねーちゃん、こんな時間に一人で出歩いちゃいけねぇよ」


そんな絡み文句の『姉ちゃん』の部分に苛立ちを覚えながら
囲まれてしまった今は何も出来ない。

穏便に済ませるには、財布を渡すしかないのかもしれないっと
ゆっくりと鞄の方へと手を指し込んだ時、
別のバイク音が聴こえた。



「総長、紅蓮です。
 奴ら、懲りずにこの界隈走ってますよ」


私を囲んでた特攻服の一人が、
同じように特攻服を来た誰かに叫ぶ。



バイクが何台も何台も
特攻服の奴らを囲むように走ってくる。

だけど紅蓮と呼ばれた集団の衣装は、
特攻服ではなく、私服そのもの。




「いました。
 あっちにいるのが、黒田っすね。

 あっちの頭の氷雨は、やっぱまだバイクなさそうですよ。
 今のうちに、やっちまったらどうです?

 目障りな奴らですから」


言いたい放題特攻服の集団がいってる中、
私の耳に残ったのは、聞きなれた響きのある名前。


「有政、影狼【向こう】の連中動かしてくれ。
 オレは嶋田【しまだ】と話しつけてくる。

 優、悪いが相棒借りるぞ」

「いいですよ。
 んじゃ、俺は有政さんのケツに乗せて貰います」


そんな会話の中心人物に居る声は、
確かに……私の良く知る氷雨で。



「嶋田、悪いがコイツは渡せねぇな」

「渡せねぇって、
 てめぇらが首突っ込んでくるもんでもねぇだろ。
 勝手にこの界隈、荒らしやがって」

「んじゃ、今、互いに走ってみるってのは?
 嶋田らに負けるほど、腕が鈍ってるつもりもねぇしな」

「その口、封じてやるよ」


売り言葉に買い言葉の様に、
氷雨に操られるように、頭に血が登った嶋田と呼ばれてた人は
自分のバイクへと向かう。

氷雨も残されたバイクに乗り込むと、
エンジンをふかし始めた。



「氷雨、どうするの?」

「由貴には関係ねぇ。
 誰にも言うなよ。

 由貴もとっとと帰れ。
 この時間帯から、この周囲の治安は悪くなる」


そう言い残すと、氷雨は相手を挑発してから
いきなりスピードを出してその場から離れていった。


何時の間にか特攻服の集団と、私服の集団が私の周囲から消えて
シーンと静まり返ってた。

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