水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
そのまま二階の部屋から退室して、
朔良さんを見送ると、エスカルゴのシャッターをおろして、
オレは一台ぽつりと残されたオレの相棒に乗り込む。
そのまま先に走りだした、有政らと合流して
軽く、風を感じながら暗闇の中を飛ばし続けた。
朔良さんとあってから三日間は、
まっとうに学校の授業にも出て、体育祭の練習にも顔を出した。
学校とバイトとチームのことに集中した三日間は、
あっと言う間に過ぎたものの、
何をしていても、彼女の存在がオレから離れることはなかった。
あの施設を訪ねることをやめた。
学校とバイトと、
チームのことを中心に過ごす。
何をしていても、彼女の顔が
オレから離れることはない。
三日後、その日はバイトも休ませて貰って
朔良さんとの約束の場所である、エスカルゴにバイクを走らせる。
誰にも立ち入らないように言われた、
二階の部屋で向き合う、オレと朔良さん。
「氷雨、時間を取らせたね。
全ての交渉は終わった。
それで、氷雨はこれからどうしたいの?」
「朔良さん。
オレ、コイツを幸せにしてやりたい。
コイツ、笑ったら可愛いんスよ。
なのに……この間の妃彩笑ってないんです。
もう一度、笑わせてやりたい。
コイツの為なら、
オレ、学校なんかやめてもいい。
今すぐ働いてもいいんです」
そう……。
オレが描く将来の夢に手が届かないなら、
せめて妃彩だけでも自分の手で幸せに守ってやりてぇ。
「本気なんだね」
ゆっくりとそう言った朔良さんの言葉にオレは頷いた。
「なら氷雨。
今、氷雨の中にある葛藤を解き放つこと。
それが私が出す条件だよ」
「オレの葛藤を解き放つ?」
「何を解き放たないといけないかは、
幼い時から描き続けた、
君の心が一番知っているはずだよね」
「……警察官になるってアレですか?」
そうだ……。
朔良さんはオレが描いていたそんな夢まで
受け止めて応援してくれてたデカイ存在だった。
「氷雨がそう思うなら、それなんだろうね。
今の氷雨が、社会に出たとしても
氷雨が出来ることは本当にとても小さいよ。
物事には、時期を見極める目を育てるのも
必要だからね。
一時の感情で、大切な人を巻き込まない。
そして、信頼出来うる人に
時には甘える強さも必要だという事だよ。
彼女のことは、私が動く。
二日後、氷雨の学校が終わった後あの場所へ迎えに行こう」
そう言ってくれた朔良さんの心がストレートに伝わってきて、
声を失った。