水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
飛び込んだ妃彩の部屋。
アイツはベッドの中に
力なく横たわっていた。
腕に刺さる点滴が痛々しい。
血管が青白く浮き上がる、
透明すぎる肌。
「……妃彩……」
近づいて彼女の髪に触れながら、
何度か声をかける。
何度目か、
声をかけつづけた後
ゆっくりとその瞳が開かれた。
「妃彩……。
悪い、迎えに来た」
ぐったりとしている
彼女を支えるように
ベッドに腰掛けて、
オレの方へと彼女を抱え上げる。
「……嘘……。
魔法使いさん?
氷雨君が
……助けてくれた……」
まだ夢でも見ているように
呟いた彼女の手が、
ゆっくりとオレの顔へと伸びてきた。
触れる掌は、
辛すぎた一か月を物語るかのような
冷たい手。
思わずその手に温もりを伝えたくて
重ねた。
「氷雨、
手続きはすべて終わったよ」
妃彩にもう少し触れようと思っていた時、
背後から聞こえたのは朔良さんの声。
妃彩は少し怯えるように、
朔良さんたちを見つめていた。
「安心しろって。
魔法使いはこっちから。
オレが一目置いてる存在かな。
朔良さんだ」
「朔良さん?」
「あぁ。
妃彩、抱きかかえるぞ」
怯えているのは朔良さんにじゃない。
この施設のスタッフたちが
集まってきているから。
だからかも知れない。
早く離れよう。
この場所から、解放してやりたい。
力強く一気に抱え上げる。
「首に両手回して、落ちるなよ」
「うん」
アイツの細い手が、
オレの首に絡まったのを確認して、
出口の方へと数歩足を進めた。
「行こうか。氷雨」
朔良さんの言葉に惹かれるように
施設を後にする。
リムジンに乗り込んで、
施設を離れるまで、
ヤツらは見送り続けてた。
リムジンの中、オレに持たれるように
眠り込んでしまった妃彩。
無理をさせすぎたのか、思ってた以上に衰弱が激しい彼女は、
朔良さんによって大学の附属病院へと連れて行かれた。
そこで彼女は体力が回復するまで、
入院することになった。
ようやく再会することが出来た妃彩。
アイツが眠り続ける病室。
アイツを見守りながら、もうこの手を放したくないと
心から思った。
この後、コイツがどうやって生活していくかなんて
まだオレも聞かされてないし、わかんねぇ。
だけど朔良さんが全て請け負ってくれてる。
だったら……今度は、オレも自分ともう一度、
向き合わねぇとな。
逃げ出すのをやめて、
現実(いま)と立ち向かうために。