水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
だけど……。
ゆっくりと書類に目を通していくと、
その中には、未成年後見人の中に氷川朔良と
魔法使いさんの名前が記されてあった。
「未成年後見人?」
書類を手元に引き寄せて呟いた私に、
氷川さんは優しく説明してくれた。
未成年の間は、保護者が必要で。
だけど私にはも両親も居なくて、身寄りもない。
だから今までは、あの施設の所長が
後見人的役割をしてくれていたらしいんだけど、
その場所を離れた今、
その後見人役を朔良さんがしてくれるのだという事。
そしてもう一枚の紙には、
桜ノ宮サナトリウム入所案内書。
そう記された資料。
「桜ノ宮サナトリウム?」
「妃彩さんは明日から、
うちのサナトリウムで生活を始めて頂きます。
その資料に目を通しておいてくださいね。
それでは、明日。
退院の時に迎えに上がります。
後一日、こちらでゆっくりと過ごしてください。
お大事に」
一礼して出ていった氷川さん。
氷川さんが病室を出て一人になった後、
私は、窓から外の景色を眺めながら
手元の資料をペラペラとめくった。
桜ノ宮サナトリウム。
そう大きな文字で書かれてたパンフレットの背景には、
実際の建物らしき写真。
今まで暮らしてきた施設と言うよりは、
ホテルとか、そんなものを連想させる建物。
ページを一枚開くと、
理念と続けられた、堅苦しい文字が目に止まる。
その後も頁をめくりながら、
私の心は、氷雨くんが学校の終わる放課後を待ち焦がれる。
時計の針が、その時間に近づくたびに
ドキドキが止まらなくて、
自分でベッドから車椅子へと移動を試みる。
「春宮さん、今手伝うから。
まだ無理しないのよ」
そう言って廊下を歩いていた看護師さんが姿を見せて、
私を車椅子に移動しやすいように手伝ってくれた。
「誰かがお見舞いに来てくれるのかしら?
嬉しそうな顔しちゃって。
暖かくしていくのよ」
そんなふうに優しく、
誰かに接して貰うのも久しぶりで……
それだけで、人らしく生きることを考えさせられる。
車輪をゆっくりとまわして、
エレベーターの前に到着すると、
ドアが開くたびに
氷雨君が出てくるんじゃないかと心を弾ませる。
ゆっくりと開いたドア、
エレベーターの前で待っていた私に、
氷雨くんも笑いかけてくれた。
私に預けられた彼のペタンコの鞄。
車椅子の後ろにまわって、
ゆっくりと押しながら、
私の病室まで戻る。