水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
「彼女は?」
「氷雨の大切な人。
ほらっと、多久馬総合病院で夏に逢ったでしょ。
こっちが氷雨の双子の兄の時雨。
もう一人の方が、氷雨の親友の一人。飛翔。
私たち四人、仲良しなんだよ」
そうやってゆっくりと話かけると、
緊張がほぐれたのか、彼女の体の委縮はやわらいでいく。
「氷雨が帰ってきたら、すぐに行くんで
あと少し、私は彼女の傍に居ます」
二人には伝えると、
時雨と飛翔は、お店を出て何処かに移動していく。
多分、彼女と過ごしていることを
氷雨自身は、
見られたくないような気がしたから。
わざと、遠ざけてみる。
「氷雨が、貴女と出逢って
凄く楽しそうだね。
あんなに楽しそうな氷雨、
久しぶりに見たよ。
私は、氷雨と妃彩さんの味方だよ。
氷雨の不安事とかがあったら、
何時でも連絡しておいで」
そう言って鞄から手帳のメモページを破ると
私自身の名前と、携帯の連絡先、メルアドをペンで書き留めて
彼女へと手渡す。
「氷雨には内緒。
でもこれは氷雨の親友としてだから。
氷雨の事で気にかかることとか、
心配なことがあったら、
いつでも連絡しておいでよ。
妃彩さんの知らない氷雨の時間。
一人くらい、密告できる存在がいると
安心できるでしょ」
そう言って微笑む私。
だけど普段の私なら、
そんなことはしない。
あまり面識のない存在に、
自分から連絡先を手渡すなんてないのに、
彼女には、渡したいと思えた。
彼女は鵜呑みにして、
そのままメモ帳を鞄に片付ける。
それと同時に、
氷雨が走りながら帰ってくる。
少し呼吸が上がっている氷雨が、
ゆっくりと息を吐き出して、
私の隣の席へと座った。
「氷雨、飲み物買って来る。
喉乾いてるでしょ」
「アイスブラック頼む」
そう言いながら、
私自身の心を落ち着かせるように
氷雨と妃彩さんから距離を置いた。
そのまま、テーブルにアイスコーヒーを置くと
時雨と飛翔が来たからと、
私はその場を後にした。
初めて出逢った、
氷雨の彼女が……私にとっても
自分の将来に大きく影響していく存在になるなんて、
この時の私にはまだ何もわからなかった。