水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」
朝食の後は、通学時間。
鞄の中に、今日一日の教科書を整頓しながらいれて
和花さんが迎えに来てくれるのを待つ。
和花さんの乗る車がサナトリウムへと入ってくると、
今井さんが運転する車に乗り換えて、一緒に通学。
学校の門の前で、シスターに挨拶をして
校舎奥の駐車場へと車をすすめていく。
車が止まった後は今井さんが先に降りて、
車椅子の準備をしてくれる。
車椅子の準備が整ったのを確認して、
後部座席から自分で車椅子に乗り移ると、
今井さんはすぐにひざ掛けをかけてくれる。
私の重たい鞄は、和花さんが持ってくれて、
私たちは二人で校舎の中に移動していく。
『ごきげんよう』
『ごきげんよう』
爽やかな声で飛び交う、
この挨拶には少しびっくりしたけど、
『ごきげんよう』って挨拶をしていくうちに
何故か、心の持ち方が明るくなってくるから不思議。
「ごきげんよう。
妃彩さま、和花さま」
車椅子に座っていても、
何一つ顔色を変えることなく
声をかけてくれるクラスメイトたち。
授業中も、同じクラスになった私の隣には、
和花さんが居てくれて、
寂しさや孤立感に包まれることはなかった。
学校生活に文句はない。
キラキラと輝いた時間は楽しいけれど、
それでも最近の私はないものねだりばかり。
受験で忙しいから氷雨には
あんまり逢えないって知ってるのに、
氷雨に物凄く逢いたくなる。
ノートに氷雨の名前を落書きしながら
過ごす授業時間。
放課後、氷雨からのメールを期待しながら
確認するのに、今日もそのメールは届かない。
『妃彩、今日行くから』
メールでもいい。
ただそれだけでも言ってくれたら、
氷雨に逢えるんだって
思えるのに……。
残念な思いで、
携帯をポケットに片付ける。
「妃彩ちゃん、
帰りましょうか?」
鞄をサッと手にしてくれた和花ちゃんの隣、
車椅子を転がしながら、
テンションの低い溜息を一つ。
駐車場には、
今井さんがすでに迎えに来てくれてた。