初恋~番外編~
西野の言うように、医者と言っても出来ることは限られている。

幸い元気になって病院を出るときには「ありがとうございました」と深々と頭を下げられ、おおげさに祭り上げられる事もあるが、病院に来た時にはすでに手遅れ・・・という状態の患者も多くいる。

そんな時には「なんで助けてくれなかったんだ」と詰め寄られる事もしょっちゅうある。
「俺だってやれるだけの事はやったんだ!」と言いたくなるのをぐっとこらえ、ひたすら耐えるしかなかった。
大切な人を失くした悲しみ、怒りをどこにぶつければいいか分からない遺族。
その矛先を自分に向けられるのは、いささか仕方ないという気持ちにもなる。

だけど、何度経験してもその場面に慣れることはなかった。



「ごめんね。なんか久しぶりに会ったのに私、変な事言っちゃって」

思考の中に西野の声が割って入っり、俺ははっと我に帰った。

「いや、俺のほうこそ物思いにふけってた。悪かった」

毅然と前を向いて答えたつもりだったが、どこが表情が曇っていたのかもしれない。
俺の顔を覗き込んだ西野が尋ねてきた。

「景一くん・・・疲れてる?」
「まぁな。医者の不養生とはよく言ったものだな」

ふっと自嘲気味に笑った俺の腕を西野ががしっと捕らえた。

「なんだ?」
「疲れた時は甘いものがいいんだよ!まだお仕事まで時間ある?」
「まぁ多少なら・・・」
「じゃあこっち!おいしいケーキ屋さんがあるの!」
「おいっ・・・西野?!」

俺の腕を掴んで歩き始めた西野に引きずられながら俺は戸惑っていた。

俺の記憶の中の西野は、こんなに強引なやつじゃなかった。
どちらかと言えば、人の一歩後ろでいつもにこにこしている印象が強かった。
正直、気の強い沙羅とよく仲良くやっていけていると思っていた。

(こいつ・・・こんなやつだったか?!)

数年ぶりに再開したクラスメートの思わぬ一面に面食らった。

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