大嫌い。でも…ほんとは好き。(旧題:ラブ・ストリーミング) 番外編
File.1 やきもちは愛情の裏返し
耳につく甘ったるい男の声。それが逆に女のものであったら良かったのか。
いや、どちらにしても耐えがたい。
ランチの時間ぐらい自由にさせたらどうだ。
どうせ、あいつにはやらない。あいつは俺のものだ。
矢野の心の葛藤は周りの社員がランチタイムに入る前から、実に三十分も続いた。
その原因というのは、広報部のフロアに残っていちゃいちゃしてる偽カップル……芽衣と武内のことだった。
「松永先輩の手、小さくてかわいいですね」
芽衣の爪をそっと撫でて、隙あらばそこへキスでもするかのように唇を寄せる武内を目に入れ、矢野の苛々はついに最高潮に達した。
がたっと立ち上がったので、芽衣と武内が驚いて振り返る。
「松永」
怒号を露わにしていたかどうか、芽衣がびくっと震えあがったので、相当顔に出ていたかもしれない。
それまでも我慢に我慢を重ねてきたつもりだ。自分の想いがいまひとつ伝わっていないことが原因だとしても。