ガラスの靴をもう一度
「な、何?離してよ」
「一人で帰れるのか?」
「帰れるわよ。タクシーだし、実家だし」
雅貴が引き留めようとしているのは分かる。
それが、心底嫌なわけじゃない。
むしろ、胸がときめく自分もいる。
でも、今は雅貴に怒りを抱く気持ちの方が大きい。
ずるいでしょ?
麻生さんを抱いた手で、私に触らないで欲しい。
しかめっつらをして腕を振り払おうとした時、体がよろめいてしまった。
「ほら。萌、自覚がないのかもしれないけど、かなり足元がふらついている」
「え?」
酔ってなんかないわよ。
確かに、タップリ飲んだけど、崇史さんの“ただいまのチュー”で酔いも覚めたんだから。
「離してよ雅貴」
「心配だよ。送るから、一緒に帰ろう」