ガラスの靴をもう一度


「あ…」

確か、あの時の店員さんだ。

「やっぱり、萌さんだった。覚えてますか?葉山です」

「はい…覚えてます。でも、よく私って分かりましたね?」

名前までは知らなかったけれど、品の良さそうな雰囲気の人で、よく覚えている。

「もちろん分かりますよ。いつも、雅貴さんから聞いてますから」

“雅貴さん”か…。

あの頃は“相沢さま”だったのに、相当な常連になってるんだわ。

だけど、知らない内に、この店に出入りしてたって事でもあるのよね。

やっぱり、知らない事はいっぱい。

それが分かると、また心がざわつく。

これじゃ、いつまで経っても気持ちの堂々巡りだわ。

「こんなにずぶ濡れで…。良かったら、雨宿りしていきませんか?」

優しい葉山さんの言葉に頷く。

きっと、もう来る事はない。

最後に一度だけ、あの頃を思い出そう…。

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