ガラスの靴をもう一度
記憶の中と同じで、店内は落ち着いた雰囲気だった。
「こちらにどうぞ」
“STAFF ROOM”と書かれた部屋に案内される途中、あの日座ったソファーが目についた。
あそこに座って、雅貴に靴を選んでもらったんだ。
まるで、あの日に戻ったみたいに、鮮明に思い出される。
「どうぞ。散らかってますけど」
小さな部屋には、シンプルな机と椅子、それに電話があるだけだった。
どうやら、休憩室らしいけれど、今は人がいない。
「これ、使ってくださいね」
葉山さんはさらに奥の小部屋から、自社ブランドのタオルを持ってきてくれた。
こんな贅沢なタオルを使うなんて、最初で最後ねきっと…。
「ありがとうございます」
髪や服を拭いていると、葉山さんが心配そうに声をかけてきた。
「萌さん、何かあったんですか?」
泣きながら、ずぶ濡れで歩いているんだから、葉山さんでなくても心配されるか。
「はい。ちょっと…」
返事をしたものの、さすがに話す気にはなれない。