ガラスの靴をもう一度
「ああ、それでいいよ。悪いなオヤジ」
ため息混じりに携帯を切ると、崇史がズレた眼鏡を直しながら聞いてきた。
「会長からですか?」
「そう。完全な私用電話だけどな。今、日本にいるから、時差の関係で忙しい時間に電話をかけてくるんだよ」
「そうですか。それにしても、会長がそうまでしてかけてくるなんて、よほど大事な用事とか?」
「別に。実家の家を売るかどうかって話だよ」
動揺を見透かされたくなくて、資料に目を向ける。
英文で書かれた資料だが、留学経験もある俺にとっては、難しいものじゃない。
それよりも、崇史の人を見透かす力の方が、俺には気が抜けないものだった。