私が少女だった頃
木下のことをBAMPの藤原みたいだとクラスの女子たちが噂していた。
とは言え似ているのは色の脱けた長い髪だけで、雰囲気とは声は全然違っていた。

木下の髪は保育園の頃からすでに茶色くて、初めて見た時私はすごく物珍しく思った。
当時は誰も木下のことを格好いいだなんて言わなくて、私だって木下よりも園長先生の息子さんの方がずっと格好いいと思っていた。
色気づく前はみんな互いに無関心だったのだ。

そんな木下から告白を受けたのは突然のことで、私はYesもNoも決められないまま、ただ彼と一緒に過ごしていた。

両親は厳しかったし、先生たちからの視線も気になっていた。
期待というものを頂き、その通りの人生を歩んでいかなければいけないのだと、私は信じて疑わなかった。
その筋書きに木下との交流なんてものは存在していなかった。

間延びしたしゃべり方、いつもいい匂いのする茶色の髪。
木下の1つ1つに惹かれた私は、筋書きから離脱することを決意した。
その結果、鍵盤を叩き続けた指が桃色に腫れた。

「やっぱりあなたはキムちゃんね」と、先生は満足げに言った。
化粧ポーチから赤の口紅を取り出して、先生は私にくれた。
「いい?あなたの担任の先生にもお母さんにも内緒よ?
大きくなってキムちゃんくらいのとびきりの美人になったら、あなたはこの紅をひきなさいね?」

桃色に腫れた指先で私はどこのブランドかも分からない口紅を受け取った。

それからしばらくして、先生は家庭の事情により学校を去った。
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