金曜日の彼女【完】
「なあ…琴葉ん家ってどこら辺?」

駅までのほんの10分ほどの道のりを歩く間、私はほとんど声を発することができないでいた。

話すのは彼ばかりで、私は彼からの話に相槌をうったり、うん、とか、はい、とか言う程度。

私の意識は完全に繋がれた手にしかなかった。


「――…琴葉?聞いてる?」

「―…え?な、なに?」

「やっぱり…聞いてないし…」

そう言ってまた顔を近づけてくる。

「ご、ごめん!」

私は恥ずかしさのあまり、慌てて俯いてしまっていた。

「…別にいいけどさ…」

それからしばらく、沈黙が続いた。




空がオレンジ色から藍色に変わろうとしていた。

駅まであと数メートルというところで私は足を止めた。


「……琴葉?」

手を繋いだままだったので彼は私に引っ張られる形になった。

…今日が告白するチャンスじゃないの?今日を逃したらまた、いつそんなチャンスがくるかわからない。

するなら、今よね?琴葉!


「駅…行かないの?」

彼が私の顔を覗き込むようにして屈んだ。


「あ、あの…」


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