金曜日の彼女【完】
「……」

言葉がなにも出てこない…。


「龍太に事実を告げるべきかどうかも…ぎりぎりまで悩んだの…」

―――…この人もきっとたくさん苦しんだんだ。

だけど――…それでも―…。


「龍太を…引き取ることは…竹内の…竹内 惣一郎の希望でもあったの」

「え?…どうしてですか?」

龍太が言った――…悪魔の一族の長とも言うべき人物――竹内 惣一郎。


その人が…なぜ。

龍太を欲したのか。


「――…きっと琴葉ちゃんにとったら…理解できない…酷い話だと思うけど」

龍太のお母さんは躊躇しながら話を続ける。

「…竹内の家には……跡取りと呼べる男子がいなかったの――…」


―――――…後継者。

政治家は二世、三世なんて当たり前の世界なんだろう。


「…その話…龍太は知ってるんですか?」

「…ええ…知ってるわ」

龍太のお母さんは再び目を伏せて、テーブルに置かれたお茶の入ったコップをキュッと握る。


―――…隣のリビングからは和兄が酔っぱらってなにかを叫んでいる声や

それを制する母の声。

それを見て笑っているであろう龍太の声が聞こえてくる。



――…竹内の名前を捨てたい、と歪んだ表情で吐き捨てた龍太。

彼の中のさらに深い闇―――――…。



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