金曜日の彼女【完】
電車に乗り込み、龍太の言う目的地に向かう。



ほぼ闇に包まれた空。街並みには家の明かりがあちらこちらに見える。


車窓から見えるそんな風景を見ていて

ふと、あの日の記憶が甦る。


今日と同じように電車に乗り、不安を抱えながら龍太のバイト先に行った日の記憶―――…。


悲しい記憶。


こんな風にまた龍太と一緒にいることができるようになるなんて、思いもしなかった帰り道。


絶望、虚無感、後悔、数えきれないほどの思いを抱えながら帰った。


思わず隣に立つ龍太の服の袖をギュッと掴む。

「どうした?」

覗き込む龍太。

「ううん、別に」

そのまま龍太の腕にもたれかかる。

そのとき、龍太の顔が近づいてきて

「…――え」

おでこに暖かい感触――…。


「…電車の中だから…おでこに…な?」

ニヤリと笑う龍太。

ボッと一気に熱を帯びる頬とおでこを思わず擦った。


< 276 / 359 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop