金曜日の彼女【完】
母はきっと、どうして龍太とえり子さんがここを離れなきゃならないかを――…。

その理由を知っていたんだ。


何度言っても連れていってはくれなかった。



「…じゃあいったいどうやって…。1人じゃ無理…だよな」


「うん…さすがにね。だからね、和兄に…」

私には甘い和兄に無理やりお願いして連れてきてもらっていた。

もしかしたら和兄も密かに龍太に会いたかったのかもしれない。

困った顔をしながらも、一度も私のお願いを断らなかった。



「…そっか…和也さん…」


「うん。でもある日――」

霧が―――…頭の片隅に残っていた霧がスーッと晴れていく。


ある日―――和兄の都合がどうしてもつかなくて。

だけど私はどうしても行きたくて。

もしかしたらって。

「それでね?1人でお金を握りしめて…駅に向かったの」


母が言っていた。


交通事故に遭って、記憶が混乱してしまった、と。


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